2020年3月23日月曜日

卒業生の皆さんへ―ゼミ担当者のご挨拶―

新型コロナウイルスの感染拡大が心配されることから、今年度の全学卒業式、学部祝賀会が中止となりました。感染防止の観点からはやむを得ないこととはいえ、卒業される皆さんには、重要な区切り、門出の祝いが行われないこととなり、私も心から残念に思っています。

人文学部としては、簡略な形ではありますが、学位記の授与を行う会を催しました。ゼミを巣立つ皆さんと言葉を交わす機会は、何とか確保されたいるわけですが、なにぶんにも素早く行われた簡素な式典でしたし、一人ひとりと親しくお話するということにはなりませんでした。また、心ならずも参加できない方もおられたわけで、私としても非常に残念に感じています。そこで、このBlogにゼミ卒業生の皆さんへ贈る言葉を記しておきたいと思います。


卒業生の皆さんへ

ご卒業おめでとうございます。今年度、卒業を迎える皆さんは、磯貝ゼミにとっては、第6期の学生、ということになります。今年の4年生とは、諸般の事情から、日本語史専攻と古典文学専攻の人びとが一緒に活動する、ちょっとイレギュラーな形でのゼミをつくってきました。皆さん自身が色々な場で言っていたように、専門が異なる人と話す機会が多く持てたことは、ゼミにとっても、皆さんにとっても「意外な収穫」となったのではないかと思います。大学での学びは、学年が進むに従って専門性の度合いが高まっていき、思考も無駄が省かれ、鋭くなっていくものですが、その一方で、自身の学びや考え方を俯瞰的に見て、さまざまな関わりの中に置き直していく視点を持つこともまた、大切なものですよね。

私たちが「好むと好まざるとに関わらず」おかれた今年の状況は、謂わば自分をメタ認知的に理解する契機が仕組まれ、そうした力を伸ばすことができた環境でもあった、と前向きに捉えて貰えたら…。私の専門的知識の不足から、「次のステージへ」引き上げてあげることができなかった方々への私の忸怩たる思いも、少しは晴れるのですが、どうでしょうか(笑)少し言い訳がましくなりましたが、皆さんがこれから出会う「社会」は、やはり好むと好まざるとに関わらず、「想定外なもの」「意外なもの」「違和感のあるもの」との出会いが連続する環境でもあります。そうしたものと出会ったとき、皆さんは、その場で生きていくために、自分を変えていくことになるでしょう。ときにはそれが辛く感じ、その場に自分が相応しくない、と思ってしまうこともあるかもしれません。

しかし、変化への誘いは、「その場に合わせた自分になれ」という要求とは、同義ではありません。これまでの自分を断ち切って、新しい自分を作る、なんていう器用なことを自在にできる人は、そんなに多くはいないでしょう。自分を押し殺して周りに合わせるのも相当苦しい話です。そうでなくとも、新人という存在でいることはたいへんなのですから。でも、今までとは異なる新しい環境、一番末端に居る(ように感じる)自分、という状況は、容易にそうした心持ちに私たちを陥らせてしまいます。私は、それはあまり健康に良い考え方とは言えないような気がします。

よく、「自分を大切に」と言いますが、私もここで、この使い古された言い回しで皆さんを送り出したいと思います。
「今ここ、で困難と向き合っている」自分を大切に。
じつは、いくら大切にしようと思ったところで、自分は変わっていくものです。皆さんが無理に変わろうとしなくとも、その場に応じて、出会ったものに応じて。(だから、必要以上に、他人から変わることを強制されること、強制されたと感じることからは、少し距離を置いて欲しい。そうした暴力を甘んじて受け続ける必要はありません。)そこで、今このときに、自分が周囲からどんな影響を受けているのか、それが自分をどんな方向に導くのか、そのことに自覚的になることができたら、それは自分で自分を「こうありたい方向」に向けて動かす助け=思考を手にしたことになるのかもしれないと私は考えます。「自分を大切に」というのは、そうした意味においてです。そしてそのことは、皆さんが大学4年間で、またゼミを通して学んできたことと、じつは深く関わっているのだと、私は信じています。

時が経って、「変わった」皆さんと再会する日を楽しみにしています。

 2020年3月23日夜 皆さんにもらった酒を飲みつつ
磯貝 淳一



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