2019年3月27日水曜日

報告書(国語教育・「書くこと」の教育・日本語史)

共同研究を行っている科研が今年度で終わりを迎え、研究成果の一部を報告書としてまとめることとなりました。「平成28~30 年度科学研究費助成事業(基盤研究(B))研究成果報告書 学びのプロセスと日本語書記史を統合する学習材・カリキュラムの開発と検証」(研究代表者:鈴木恵、全153頁)

この科研は、国語教育と日本語学(日本語史)の研究者による共同研究です。ともすれば文法の暗記や現代語訳といったスキル重視に傾きがちな古典の教育に対して、「学習者が古典の世界を生きる」授業を可能にする教材の開発を目指しています。学習者にとって全くの他人であった古典が、むしろ自らをつくる内なる「他者」として意味を変えるためには何が必要なのか。異なる分野の研究者が集まり、「異なる言語」で同じゴールを目指す試みはなかなかに苦しい道のりでもありました。とはいえ、本科研の前段階の研究課題と合わせて6年間の研究期間、国語教育/日本語学相互の学問上の関わりを再度結び直す土台を作ることができたと考えています。

(報告書を読んでみたい、という方は磯貝までお知らせください。送料は当方負担でお送り致します。)


報告書第1章「本研究の目的」より
 本研究は、学びのプロセスと日本語書記史を統合する学習材・カリキュラムの開発と検証を目的とする。「読み・書くためには何が必要なのか」という知識・スキルの習得に至るための言語理解ではなく、「なぜこのような仕組みによる言語(活動)を行うことになっているのか」という問いの創出を本研究では重視している。このことによって、学習者が自らの言語活動について、それを支える背景(言語文化共同体のあり方)とともに自覚的に捉え直すことを可能にする学習材の開発を進めてきた。
 学習者が学ぶことになる言語(現代日本語)のあり方を知るためには、日本語の歴史的変遷を背景とした「国語の特質」を解明する必要がある。歴史的変遷を背景に形作られた「国語の特質」とは、諸外国語と比べた際に目に見えやすい特徴(発音・表記・文法・語彙など)のみを指すのではない。むしろ日本語話者にとって、その自明性を問うことが難しい思考のレベルにおいて学習者の言語を縛っている目に見えづらい仕組みと捉え直すことができる。
 また、こうした歴史的変遷を背景とした言語の特質を設定することによって、古典教育に新たな学習内容と方向性を示すことが可能となる。現代を生きる学習者にとっての古典の世界や言語は、自身とは離れた遠いところ位置するものである。古典を学ぶためには、現代のフィルターを通した翻訳や喩えを経由せざるを得ない実態があり、学習者の現実(言語観)を変容させる力を持つ授業を可能にする学習材は決して多いとは言えない。しかし、自分自身が読み・書くこと、考えることに影響を与え、また変容させうる可能性が古典の中にあることを知る古典学習は、学習者が古典の(言語)世界を生きるプロセス(活動)が仕組まれることで成立する。本研究における「学びのプロセスと日本語書記史を統合する」学習材・カリキュラムの開発は、最終的には「読み・書く」言語活動における思考(ものの見方・考え方)の深化を目指している。その意味において、古典は「読む」ための教材から「書く」ための教材へとその位置づけを拡張させることとなる。



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