日本語の歴史研究


私たちが日々使っている言葉は、日々変化していきます。その変化を大きな時間の流れの中に置いてみた時、それは今現在を生きている私たちには自覚できない、しかし意味のある変化となるかもしれません。私たちはその変化の最先端を生きていると考えることもできるでしょう。

このように日々の変化の積み重ねとして史的に展開する日本語について、「過去」の日本語の実態やある一定期間における変化をとらえようとするのが日本語の歴史研究です。

研究することで、自分の言葉について「こうなっていたのか!」と理解を深めていくことができる現代日本語研究に対して、「なぜこうなっているのか」という問いに答えを与えてくれるのが日本語史の研究かもしれません。


うつりかわる言語


定家本『土左日記』冒頭部分(尊経閣叢刊:国立国会図書館デジタルコレクション)
ここに示したのは『土左日記』ですが、現代の私たちが活字で目にするものとは様々な違いがあります。使用する紙・筆記具の違いからはじまり、字形や字体の違い、句切り符号の不使用、言葉の選び取り方等々。私たちは「この書き方が常識」であった時代の日本語に向き合うことになります。

当然のことながら言語資料に見える日本語は、その時その場の言葉の「常識」(ただしその時にあっては自覚することが難しかった常識)を背景に生み出されたものであり、離れた時代から見れば違和感のある言語の実態があるかもしれません。
をとこもすといふ日記といふ物/をゝむなもして心みむとてする/なりそれのとしゝはすのはつか/あまりひとひの日のいぬの時に/かとてすそのよしいさゝかに物/にかきつく
先にみた冒頭部分はこのように翻字することができます。「男もすなる日記といふものを女もしてみむとてするなり…」とはかなり違う『土左日記』の姿があります。藤原定家が本書を書写したのは文暦2(1235)年。オリジナルの『土左日記』成立から300年も経つと、言葉の変化を背景としたこのような「異なり」も見られるようになります。


日本語の歴史研究の対象


さまざまなアプローチが考えられますが、大きくは
文字 ・ 音韻 ・ 文法 ・ 語彙 ・ 文章文体
などの観点から、ターゲットとする時代・資料の言語の実態を解明することになります。これらの研究領域は大きなくくりにすぎませんから、たとえば「文字」の歴史を研究するにしても、文字の形の分類や変遷を問題にするのか、文字の運用方法を解明するのか、文字文化の所産である古辞書の研究を行うのか…興味や関心にしたがってさまざまな研究を行うことが可能です。
 
また、その時代の言語をどのような資料によって明らかにしていくか、という点についても、『源氏物語』『今昔物語集』『吾妻鏡』等々名前をよく知られている資料でさえ、実は言語の実態がよく分かっていない部分も残されています。さらにはこれまでだれも研究を行ってこなかった新規の資料もまだまだ多くあり、日本語の歴史研究は今後解明していくべき多くの課題をもった研究分野だといえるでしょう。


日本語の歴史研究についてさらに詳しく調べるためのリンク


訓点語学会(学会ホームページ)
日本語学会(学会ホームページ)
日本語研究・日本語教育文献データベース(国立国語研究所)
KAKEN 科学研究費助成事業データベース(国立情報学研究所)
CiNii Articles 日本の論文をさがす(国立情報学研究所)
国文学論文目録データベース(国文学研究資料館)


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