2019年7月25日木曜日

研究資料『東山往来』(ゼミの紹介)

ゼミではここ何年か、平安時代末期に成立した古往来『東山往来』を取り上げて、日本語史研究の立場から読解を進めています。手紙の文例集の形をとりつつ日常の実用的な知識を網羅的に記す「往来物」のうち、近世以前に作られたものを特に「古往来」と呼びます。往来物は、初等教科書としての性格を持ち、近世以降、社会的階層や職業に応じて様々なものが出版されていくことになります。

さて、『東山往来』は、往来物の中でも古い形式(往来物の様式による分類)をもっており、「実際の手紙のやりとりを集めて」作られた、という建前で成り立っています。実際、その文章を読むと、「西洛の檀那」の質問に対して「東山の師僧」が答えるという往復一双の形式が連続して収められていることが分かります。様々な日常の悩みや疑念が俗人である貴族から寄せられ、仏教を中心とした専門知を持つ僧侶がそれに応じるわけですが、貴族の「日常」に関わって発せられる「問い」は実に様々です。たとえば…
 「読経に際して音と訓と、いずれが勝るか」
 「小児に紅蘇芳の着物を着させることの可否」
 「病気の人が髪を路辺に立てる風習についての根拠」
 「二人の並び立つ中間を分けて通ってはならない理由」
なかなか面白い問いが収められています。私たちのゼミでは、日本語の書記様式の一つである「変体漢文」の研究資料として、扱っていますが、文章の内容から見ても、『東山往来』は十分魅力的で面白い資料と言えます。



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