2016年2月22日月曜日

本は「棚に並んでいて欲しい」と思う理由とバーチャルな対応策(新書マップ)

新潟大学附属図書館は、大変きれいな建物でくつろいで勉強できるスペースも多く、私も好もしいと思っています。職員の方々も親切です。ただ一点(他にも色々あるけれどこの問題は特に。そしてこの問題は本学に限ったことではないけれど。)、「自動化書庫」と呼ばれる収蔵庫に多くの本が入れられているシステム、これにはちょっと困っている。他の方々もさんざん指摘されているけれど、やはり本は棚に並んでいて欲しいのです。

目的の本が明らかであれば、それを手にすることができるのであれば、その本の収蔵状況など知ったことではない、という 向きも多いのかもしれません。しかも最近は、どの図書館でも、OPAC等の蔵書検索システムが整えられており、書籍の有無はもちろん、まさにピンポイントで指定して、迷うこと無く目的の本に出会うことが(手元に運んできてもらうことが)可能です。これは図書館で本を借りる場合に限らず、ネットショッピングで本を買う場合も同じこと。

ところが、私たちにとってはこの「迷うこと無く」がクセ者だと思うのです。書架にある本を借りようとすれば、目指す本が決まっていても、図書館の本に個別の登録番号が振られていても、なお棚に並んだ多くの本の中から目的の本を選び出す作業が必要となります。その際には、並べられた本の背表紙にあるタイトルや著者名などが必然目に入ってきますし、目的の本の周辺にはどのような本があるかも何となく頭に入るものです。目的の本が無く、その棚周辺からなんとなく選ぼうか、などという際にはこの過程に一層時間が費やされます。

じつは、この「一手間」は省略するとたいへんな損をすることになる、というのが文献をベースに研究する人々に共通の認識だと思います。本を探し出す作業は、目的の一点に向かうだけのものではなく、その間に目的の知識に関わっている周辺の知識の存在を知り、そのことで脳内に知のネットワーク(仮)を構築している時間でもあるのです。一冊の本を読むことで、私たちはそこに記されている知識の体系を手にするわけですが、実際には本を読む前に、既にその準備作業として本一冊にとどまらない知のネットワーク化が始まっている、ということなのです。

ただ、年々増加する書籍のすべてを並べるのは不可能です。また、ネットショッピングの発達で、それまで簡単には手にすることのできなかった書物を入手できるようになったのは、喜ばしいことで私もこの流れに抗うつもりは(あまり)ありません。 ただ、この頭の中に知のネットワークを作る過程が書物の収蔵という問題や流通の便利さのために失われていくのは、なんとも勿体ないと私は思っているのです。そこで、対応策の一つとして、演習やレポートのテーマ選択の過程で必要に応じて、「新書マップ」というWebページを薦めることがあります。

「新書マップ」の第一の特徴は、検索をキーワードに限らず文章で行うことができる点にあります。マッチする効率の問題もありますが、とりあえず、“日本語の歴史において漢字が果たした役割と問題点”などと入力すると、それに関わるキーワード一覧が示されて、それを選ぶことで関連書籍に至ることができます。

第二の特徴は、出現するキーワードが自分の言葉で立てた問いではなく、実際の書籍において立てられている問いに変換されて示される点です。このことを通じて、自分のやわらかな問いが実際の学問領域(的な枠組み)に位置づけられ、さらにその領域の周辺領域との関わりを知ることになります。

第三の特徴は、そういった「知のネットワーク」(実際にはかなり「一般的すぎる」ものも提示されますが)がビジュアルで展開する点です。最初の検索後、キーワードが星座のようにちりばめられた円が登場します。そのキーワードを選択することで、それに関連する書籍の一覧を選び出すことができます。またさらに、その円の外縁には、各キーワードが変わる領域がキーワード化されて取り囲んでいます。この外縁のキーワードを選択することで、問いの内容を当該の領域に関わるキーワード群にシフトすることも可能です。この第三のビジュアルに関わる特徴が、新書マップ最大のウリだと思います。

第四の特徴は、円の中のキーワードを選択後、書籍一覧に至るわけですが、これが実際の書架のビジュアルで登場する点です。キーワードに関わる数冊の本が並べられ、個々の本を選択すればその内容の詳細を見ることができます。

というわけで、「新書マップ」は先に述べた本を選ぶ際に脳内で行われる「知のネットワーク」の構築をバーチャルにビジュアル化して行うことを可能にしたサイトだと私は思っています。学生たちにも自分の興味関心のあるテーマをより専門的に位置づけたり、また周辺領域との関わりを知ったりする過程を自覚化してくれるツールとして薦めることがあります。

ただ惜しむらくは、提示される書籍が「新書」に限られる点です。一般的な読書での利用であれば大変便利なものですが、学問的な問いを立てそれを学問領域に位置づけるためには、少々力不足といった感が否めません。ただし、キーワード一つで個別の知識にピンポイントに「迷うこと無く」アクセスしてしまう風潮の中で、知のネットワーク構築の自覚化を美しいビジュアルとともに可能にしてくれている点は、ちょっといいんじゃない?と思っているのです。


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